「かきねの かきねの まがりかど――童謡『たきび』ゆかりの地を歩く」

アートと文化

子どものころに口ずさんだ童謡「たきび」。
その歌詞にある「かきねの かきねの まがりかど」の情景が、実は東京・中野区に実在する場所だと知り、訪ねてみたくなりました。
懐かしい歌とともに、静かな住宅街で昭和の面影に触れるひとときになりました。


子どもの頃から親しんできた童謡「たきび」。その一番の歌詞にある「かきねの かきねの まがりかど」という場面が、実際に東京の中野にあると知り、2022年の秋、訪ねてみました。
場所は西武新宿線・新井薬師前駅から歩いて10分ほど、上高田3丁目の住宅街の一角です。そこに、長い竹の垣根を持つお屋敷があり、この垣根こそが童謡「たきび」の舞台になったといわれています。

垣根の途中には、木々に囲まれた小さな地蔵さまが佇み、その脇には「たきびのうた発祥の地」と記された看板が立っています。

『かきねの かきねの まがりかど たきびだ たきびだ おちばたき 「あたろうか」「あたろうよ」』

その看板によると…
この歌の作詞者である巽聖歌(たつみせいか・本名 野村七蔵 1905〜1973)は、岩手県に生まれ、北原白秋に師事した詩人。
昭和5〜6年頃から約13年の間、近くの上高田4丁目に住み、朝夕このあたりを散歩しながら「たきび」の詩情を育んだと伝えられています。

昭和の初期、この周辺は武蔵野の面影を残すのどかな場所だったそうです。
今では住宅が並ぶ静かな街並みとなっていますが、けやきの大木や竹の垣根の一部には、どこか懐かしい昭和の香りが漂っていました。
風が吹くたび、竹の葉がこすれ合う音がして、まるで遠い昔の冬の夕暮れを思い出すような、温かな時間が流れます。

看板の最後には「歳月が流れ、武蔵野の景観が次第に消えていくなかで、この一角は今も当時の面影をしのぶことができる場所」と記されていました。
歌を通して育まれた記憶と情景が、こうして今も静かに残っていることに心を打たれます。

子どもの頃に歌った懐かしいメロディとともに、記憶の中の冬の夕暮れがそっと蘇るような、穏やかな散策となりました。

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