黒部峡谷・大杉谷と並び「日本三大峡谷」に数えられる清津峡。
V字に切り立つ岩壁と清流がつくる景観は、国の名勝・天然記念物にも指定されています。
2024年の冬、越後湯沢駅からシャトルバスに乗り、清津峡渓谷トンネルを訪れました。
入口に近づくにつれて、観光地のにぎわいとは少し異なる、静かな空気が流れはじめます。
トンネルの中で出会ったのは、光と水がつくる幻想的な空間だけではありませんでした。
落石事故をきっかけに生まれたこの場所には、安全への願いと、自然と共に生きようとする人々の思いが重なっています。
雪に包まれた峡谷の静けさと、その奥にある物語をたどりながら、冬の清津峡を歩いた記録です。
越後湯沢から、冬の峡谷へ
清津峡は車でしか行けないと思い込んでいたのですが、期間限定で越後湯沢駅からシャトルバスが出ていることを知り、急遽日程をやり繰りして出かけることにしました。
上越新幹線がトンネルを抜けると、まるで川端康成の小説のように「そこは雪国だった」という光景が広がります。とはいえ、この年は雪が少なく、越後湯沢駅前にはほとんど雪が見当たりません。
スキー客でにぎわう駅前を抜け、シャトルバス乗り場に並びました。
越後湯沢駅の周辺はスキー客でにぎわっていましたが、清津峡へ向かうバス乗り場には、観光目的の人が多く並んでいました。
スキー客と同じく海外からの旅行者も多く、このバスの乗客のほとんどが海外の方だったのが印象的です。
言葉がほとんど聞き慣れないものに変わっていく中で、これから向かう場所が少し特別な場所のように感じられました。
同じ雪の地域でも、向かう場所によって流れる空気が少し違うことに気づきます。
バスは山あいの道を進み、次第に建物が少なくなっていきます。
谷へと入り込んでいくにつれて、視界の広がりよりも、静けさが際立っていくように感じられました。
シャトルバスで向かう清津峡
バスに揺られて着いた清津峡も、思ったより雪が少なく、歩きやすい反面、せっかくならもう少し銀世界を見たかったなと思いつつ、トンネルの入口へと向かいます。
光と音が導く「Tunnel of Light」
清津峡渓谷トンネルは、もともと落石事故をきっかけに整備された安全な観光ルートでしたが、2018年「大地の芸術祭」を機にアート作品《Tunnel of Light》として生まれ変わりました。
全長750メートルのトンネルは外界から遮断された潜水艦をイメージしており、途中の見晴らし所や終点のパノラマステーションが「外を望む潜望鏡」として設計されています。
水鏡に映る、冬の静けさ
終点の水鏡の空間では、床に張られた水が峡谷の光と人の姿を映し出し、幻想的な世界をつくり出していました。
多くの人がその一瞬を写真に収めようと順番を待ち、それぞれの視点でこの風景を切り取っています。
一方で、レンズを通さずにその場に立ってみると、耳に入ってくるのは水のわずかな音と、人の気配がやわらかく反響する空間の広がりでした。
光の演出以上に、その場に流れる時間の穏やかさが、静かに心に残っていきます。
しばらくその場を離れがたく感じたのは、この空間がただの展示ではなく、どこか感覚に触れる場所だったからかもしれません。
安全と祈りが生んだトンネル
解説パネルを読むと、ここがもともと遊歩道の代替として造られたことを知りました。
かつては峡谷沿いを歩ける遊歩道が整備されていましたが、落石事故によって死傷者が出る大惨事となり、通行は禁止に。
「せめて清津峡の美しさだけでも見たい」という多くの声を受け、4年間の閉鎖を経て新たにトンネルが建設されたのだそうです。
安全に配慮しつつ、国立公園の景観を損なわない工夫が施されたこのトンネルは、1996年に完成し、再び清津峡を人々に開くことになりました。
華やかなアートの裏に、事故の記憶と、自然と共に生きるための祈りのような思いが重なっている――。
そう思うと、この場所がただの「映えスポット」ではないことを感じずにはいられません。
実際にトンネルを歩いたあとでこうした背景を知ると、トンネルの中で見ていた景色が、少し違ったものに感じられてきます。
単なる観光施設ではなく、「この場所を安全に残したい」という思いの上に成り立っている空間なのだと感じました。
※こうした険しい峡谷の景観を、安全に楽しめる形へと整えてきた場所は他にもあります。
▶ 黒部峡谷トロッコ電車でたどる峡谷の旅の記録
冬の越後湯沢へ戻る
静かな冬の峡谷で、光のトンネルを歩きながら、今に至るまでの人々の思いをそっと噛み締めました。
清津峡を後にして再び越後湯沢駅へ戻り、ロープウェイで湯沢高原へ。
ゴンドラを降り立つと、そこは一面まぶしいほどの白銀の世界が広がっていました。
雪のきらめきを胸に刻みながら、名残惜しくも冬の越後湯沢を後にしました。
清津峡のアクセス情報
越後湯沢駅から清津峡渓谷トンネルまでは、
期間限定でシャトルバス(雪国観光舎)が運行されています。
※運行期間が限られるため事前確認がおすすめです。
路線バスの場合は「清津峡入口」バス停で下車し、
清津峡渓谷トンネルまで徒歩約30分です。
冬季は天候や積雪状況によって運行や道路状況が変わることもあるため、時間には余裕をもって訪れるのがおすすめです。
また、足元は雪が少ない日でも滑りやすい箇所があるため、防滑性のある靴だと安心して歩けます。
















訪問日:2024年2月13日(火)
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