2026年10月8日、愛知県常滑市にあるINAXライブミュージアムを訪れました。 ここは、土とやきものの歴史や文化、ものづくりの技術を紹介する見学・体験施設です。
土管製造に使われた窯や機械、世界各地のタイル、近代建築を飾ったテラコッタなどを見学しました。 なかでも、タイルの裏側に残された製造・施工の工夫や、旧帝国ホテルの建設を支えた常滑の職人たちに関する展示が興味深い内容でした。
この記事では、各施設で見学した展示や設備の特徴と、最後に参加した「光るどろだんごづくり」の体験を紹介します。
窯のある広場・資料館|土管づくりの歴史と製造設備
最初に見学したのは「窯のある広場・資料館」です。 ここには、かつて土管の製造に使われていた窯や工場建屋、煙突が保存され、当時の製造設備などが展示されています。
1921年に築かれた工場は1971年に操業を終え、1986年に資料館として公開されました。 窯や煙突などは、1997年に国の登録有形文化財に登録されています。
常滑では、明治時代から土管の製造が盛んになりました。 土管は都市の下水道整備や鉄道の排水設備などに使用され、常滑の窯業を支える製品の一つとなりました。
館内には、粘土を練る土練機や、粘土を円筒形に押し出す土管機など、土管の製造に使われた機械が展示されています。
また、重い土管を運ぶために考案された「伊奈式運搬車」も展示されていました。 直径30cmの土管は1本約30kgもあり、運搬は重労働でした。
伊奈初之烝が考案したこの運搬車は、てこの原理で土管をすくい上げ、ばねで振動を吸収しながら運ぶ仕組みです。 重い土管を運ぶ作業が楽になったことから、業界の人々から「救い車」と呼ばれたそうです。
建屋内には、石炭を燃料とする「両面焚倒焔式角窯」が保存されています。 煉瓦造りの大きな窯は内部も見学でき、炎の映像によって当時の窯焚きの様子が再現されていました。
世界のタイル博物館|信仰から暮らしへ広がるタイル文化
次に訪れたのは「世界のタイル博物館」です。 館内では、古代から近代まで、世界各地で使われてきた装飾タイルの歴史や文化が紹介されています。
1階には、古代エジプトやイスラームなどの装飾タイル空間が再現され、2階には地域別のタイルコレクションが展示されています。
古代エジプトの展示では、紀元前2650年頃に造られたジェセル王の階段ピラミッドの地下空間にあった「魂のための扉」が再現されていました。 青いタイルには、王の再生や復活を願う意味が込められていたと考えられています。
イスラームのタイル装飾を再現したドーム天井も見どころの一つです。 12種類の形と7色のモザイクタイルを組み合わせた幾何学模様が天井を覆っています。 照明によって朝から夜までの光の変化が表現され、時間帯によって装飾の見え方が変わる演出も楽しめました。
展示を見ていくと、タイルは宗教的な建築を飾るだけでなく、住まいや公共建築の装飾にも広く使われるようになったことがわかります。
ヨーロッパの展示では、暖炉の周囲や室内を飾るタイルが紹介されていました。 17〜18世紀のオランダでは、中国の染付磁器を参考にした青と白のタイルが住まいに取り入れられました。
また、イギリスでは産業革命以降、タイルの工業生産が進み、ヴィクトリア朝には住宅や公共建築で多彩な装飾タイルが使われるようになりました。
タイルの裏側に残る製造と施工の工夫
世界のタイル博物館で特に興味深かったのが、「タイルの裏が語る」という展示です。
タイルというと表面の色や模様に目が向きますが、裏側にも製造や施工に関するさまざまな情報が残されていました。
製造会社の名前やブランドマークが刻まれたものもあれば、壁や床から剥がれにくくするための凹凸が設けられたものもあります。 この凹凸は「裏足」と呼ばれ、施工後にタイルが剥がれにくくなるよう工夫されたものです。
また、表面に立体的な模様を施したタイルでは、厚みをできるだけ均一にし、焼成時の変形を抑えるため、裏側にも凹凸が設けられていました。
焼成時に棚板へ張り付かないようにした跡や、一度に多く焼くためにタイルを重ねた痕跡も紹介されていました。
普段は見る機会の少ない裏側から、タイルの製造方法や施工技術の工夫を知ることができました。
トンネル窯|タイルを大量生産した焼成設備
世界のタイル博物館の次に見学したのは、タイルの焼成に使われていたトンネル窯です。
高度経済成長期にはビルの建設が盛んになり、外壁をタイル張りにすることが広く普及しました。 それに伴い、品質のそろったタイルを大量に供給する必要が生まれ、連続して焼成できるトンネル窯が導入されました。
この窯は1972年に伊奈製陶の工場に築かれ、2005年まで使用されていました。 全長80mのうち16mが移築・復元され、当時の設備を見学できます。
トンネル窯は、タイルを載せた台車を窯の中で移動させながら、予熱・焼成・冷却を連続して行う仕組みです。 入口側の油圧式押し出し機で台車を押し、温度の異なる区間を少しずつ移動させていました。
焼成帯では、一般に1,200〜1,250℃の高温に達します。 窯の内部は熱電対を使って温度管理され、製品を徐々に加熱して焼き固めていました。
冷却帯では、出口側から取り込んだ外気によって焼成後のタイルを徐々に冷やします。 製品の熱で温められた空気は焼成帯へ送られ、一部は乾燥工程の熱源としても再利用されていました。
内部には台車が通るレールが残され、タイルを積み重ねるための棚板や支柱も展示されていました。 煉瓦造りの窯の内部を見ると、台車を移動させながら大量のタイルを連続して焼成していた仕組みがよくわかります。
建築陶器のはじまり館・テラコッタパーク|近代建築を飾ったやきもの
続いて訪れたのは「建築陶器のはじまり館」と、屋外展示の「テラコッタパーク」です。 ここでは、日本の近代建築に使われたタイルやテラコッタが紹介されています。
テラコッタは、花や動物、幾何学模様などを立体的に表現した大型の建築用陶器です。 大正時代から昭和初期にかけて、鉄筋コンクリート造の建物の外壁や玄関などを飾る装飾材として広く使われました。
建築陶器のはじまり館では、明治時代から昭和初期にかけての建築の変化と、テラコッタの製造や装飾技術について紹介されています。
旧帝国ホテルを支えた常滑の職人たち
館内では、フランク・ロイド・ライトが設計した帝国ホテル旧本館(ライト館)に関する展示を見学しました。
1923年に完成したライト館には、表面に簾(すだれ)のような細い筋を施した黄色い「スダレ煉瓦」や、大谷石が使用されていました。
ライトは、スダレ煉瓦の試作品をアメリカから持参し、ホテルの建設に使用することを希望しました。 しかし、輸入には多額の費用がかかるため、国内で製造することになり、原料となる土探しから始まりました。
そこで選ばれたのが、愛知県知多半島で採れる「内海粘土」です。 1917年には常滑に帝国ホテル煉瓦製作所が設けられ、伊奈初之烝・長三郎親子や地元の職人たちが製造に携わりました。
職人たちは、ライトが求めた黄色い焼き上がりや細かな筋模様を実現するため、試作を重ねました。 ライト館の建設には約250万個ものスダレ煉瓦が使われ、こうした技術は後のスクラッチタイルの製造にもつながっていきます。
展示室には、ライト館で実際に使用された柱の一部が保存されていました。 煉瓦と大谷石が組み合わされた構造や、表面の細かな装飾を間近で確認できます。
また、館内では職人たちが働く様子を記録した古い映像も上映されていました。 建築部材の実物と映像の両方を見ることで、ライトの設計を実現するために常滑の職人たちが果たした役割を知ることができました。
テラコッタパーク|近代建築の装飾を屋外で見学
屋外のテラコッタパークでは、15の建築物に使われていたテラコッタが展示されています。 建物の壁面を再現するように取り付けられたものもあり、当時の建物の写真パネルと見比べながら、実際にどのように使われていたのかを知ることができました。
展示されていたのは、横浜松坂屋本館や朝日生命館、大谷仏教会館などで使われていた建築陶器です。
横浜松坂屋本館のテラコッタは高さ約4.5mもあり、中央には松坂屋の「いとう丸」と呼ばれるマークが見られます。 また、朝日生命館の装飾には、立体的な彫刻が施されていました。
土・どろんこ館で光るどろだんごづくりを体験
展示施設を見学した後は、「土・どろんこ館」で光るどろだんごづくりを体験しました。 体験は事前予約制で、所要時間は約60分です。
講師の方から説明を受け、あらかじめ丸められたやきもの用の粘土を、専用の道具で削って形を整えるところから始めました。
次に、好みの色の「化粧どろ」を表面に塗って色付けをします。 私が選んだのは青系の色で、色付け直後はまだ光沢のない状態でした。
その後、瓶の口を使って表面を繰り返し磨きます。 講師の方の説明に従って作業を進めると、次第に表面に光沢が出てきました。
現地で磨き終えたどろだんごは持ち帰りました。 講師の方から自宅でも約2週間磨き続けるよう説明があり、持ち帰ってからも磨いています。 現地で磨き終えたときと、自宅で磨いている途中の様子を写真で紹介しています。
訪問時の体験料金は1個1,200円(税込)でした。 体験には事前予約が必要で、展示施設の見学とは別に申し込みます。


















🚶 常滑のやきもの散歩道を歩く
INAXライブミュージアムを訪れた同じ日に、常滑駅からやきもの散歩道も歩きました。 とこにゃんや土管坂、登窯など、常滑の窯業の歴史を感じられる場所を紹介しています。

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