2026年9月。市谷の杜 本と活字館で行われている、常設展示の解説ツアーに参加しました。
今回のツアーでは、館内に残る活版印刷の機械や道具を見ながら、活字を作るところから印刷、製本を経て一冊の本ができるまでを、6つの工程に沿ってたどります。
大正15年の印刷工場を復原した「本と活字館」
ツアーは、現在の本と活字館の建物についての説明から始まりました。
この建物は大正15年(1926年)に建てられ、市谷工場の営業所棟として使われていたものです。 1926年の竣工当時の姿に修復・復元され、2020年に「市谷の杜 本と活字館」として開館しました。
ツアーでは、DNPには2003年まで活版印刷を行う部門と活字を鋳造する部門があり、市谷の工場でも活版印刷が行われていたという説明がありました。
活版印刷で本ができるまでをたどる
建物についての説明に続いて、活版印刷の仕組みを教えてもらいました。
活版印刷では、一文字ずつ作られた活字を組み合わせて版を作り、紙に印刷します。 ツアーでは実際の活字を一つずつ手に取り、その大きさや形を見ることもできました。
ここで見せてもらったのが、活版印刷で作られたパリのガイドブック『MA VIE A PARIS』日本語版です。 1ページには700〜800文字ほどが並び、約400ページある一冊を作るために使われる活字は約10万文字にのぼるという説明がありました。
一冊の本を作るだけでも、これだけ多くの活字が必要になります。 そのため、活版印刷では活字そのものを作る工程も欠かせません。
ツアーでは、活字を作るところから一冊の本に仕上がるまでを、6つの工程に沿って見ていきました。
①作字|文字をデザインして母型を作る
最初の工程は「作字」です。 活字を作るためには、まず元になる文字を一文字ずつデザインします。
手書きで文字を描いたものを「原図」といい、そこから金属板に文字を写して「パターン」を作ります。 展示されていたパターンは亜鉛板で、文字の部分がくぼんだ状態になっていました。
このパターンを活字パントグラフにセットし、文字のくぼみを「フォロワー」と呼ばれる針状の部品でなぞります。
すると、パントグラフの原理によってフォロワーの動きが縮小され、機械上部のカッターへ伝わります。 その動きに合わせて文字が小さく彫刻され、活字を鋳造するための「母型」が作られます。
彫刻は一度で仕上げるのではなく、荒彫り、中間彫り、仕上げ彫りと段階を分けて行われていました。
②鋳造|母型から活字を作る
作字で母型が完成すると、次はその母型を使って活字を作る「鋳造」の工程です。
ツアーでは、館内に展示されている「万年自動活字鋳造機」を見ながら説明を受けました。
機械の背面には釜があり、約360℃で溶かした鉛合金を、本体にセットした母型と鋳型に流し込んで活字を作ります。 活字は1本ずつ連続して鋳造され、同じ文字をまとめて作っていました。
鋳造した活字は、高さなどが正しく仕上がっているかを確認します。
展示されている万年自動活字鋳造機は、昭和49年(1974年)から2003年まで使われていたものです。 現在も動かすことができますが、鉛を扱うことによる健康面への配慮から、鉛を使わない方法についても検討されているという説明がありました。
③文選|原稿を見ながら活字を拾う
鋳造された活字がそろうと、次は原稿に書かれた文字を活字棚から一文字ずつ拾う「文選」の工程です。
活字を並べた棚は「ウマ」と呼ばれ、そこには「すだれ」と呼ばれる活字ケースが並んでいます。 すだれには文字の使用頻度などによって「袖」「大出張」「出張」「小出張」「外字」といった呼び名があり、ひらがなは手に取りやすい位置に置かれていました。
職人が扱うのは、ひらがなやカタカナのほか、使用頻度の高い漢字約2,500文字。 原稿を確認しながら、必要な活字を1文字につき2〜3秒ほどで拾っていきます。
なかには1日に1万字ほど拾う職人もいたそうです。 DNPでは、多い時期には約100人の職人が文選に携わっていました。
館内には文選を体験できる展示もあり、実際に原稿を見ながら活字を探すことができます。 ツアーでも、ぜひ体験してみてくださいと案内がありました。
④植字|活字を組んで紙面を整える
文選で拾った活字を使い、ページの指示に合わせて紙面を整えていくのが「植字」です。
文字を並べるだけではなく、記号や数字、ふりがなを加え、行間などを調整しながらレイアウトしていきます。 文字や行の間隔を整えるためには、「クワタ」や「インテル」と呼ばれる材料も使われます。
こうして紙面の形に組み上げたものは、崩れないようにタコ糸でくくります。 完成したものが「組版」です。
本の紙面に写真や挿絵、イラストを入れる場合には、「写真凸版」と呼ばれる凹凸のある金属板を使います。 写真や絵を表現するための版を組版に加え、活字と一緒に印刷できるようにしていました。
DNPには写真凸版を作る部門があり、そこで製作された写真凸版も印刷に使われていました。 館内には、写真凸版を出版社ごとに分けて保管していたロッカーも残されています。
⑤印刷|平台式活版印刷機で紙に刷る
組版が完成すると、次は紙に刷る「印刷」の工程です。
ツアーでは、館内に展示されている平台式活版印刷機を実際に動かしながら、印刷の仕組みについて説明を受けました。
平台式活版印刷機は、機械の上に版を平らに組み付け、紙を1枚ずつ手差しして印刷する機械です。
展示されている機械がいつ作られたものなのかは分かっていません。 DNPが譲り受けたあと、長い間、社内の工場で使われないまま保管されていました。
解体した際には、圧胴の胴貼りに昭和16年(1941年)の新聞が使われていたことがわかり、昭和初期からその頃まで稼働していたと考えられているそうです。
現在はDNPの技術者によって解体・修理・復元され、再び動かせる状態になっています。 常設展示では、復元された平台式活版印刷機が実際に動く様子を見ることができます。
⑥製本|印刷した紙を一冊の本に仕上げる
印刷を終えた紙を折り、重ねて一冊の本に仕上げる最後の工程が「製本」です。
ツアーでは、上製本(ハードカバー)の本を作る際に使われていた糸かがり機の前で説明を受けました。
印刷した大きな紙を折ったものを「折丁」といい、これを順番に重ねて背に糸を通し、一冊分を縫い合わせていきます。 20折ほどであれば、5〜6分ほどでかがることができたそうです。
糸かがりを終えたものは裁断し、背をにかわや寒冷紗などで固めます。 さらに栞ひもや花布を付け、表紙と合わせてハードカバーの本に仕上げていきます。 この背を固める工程からは、人の手によって作業が行われていました。
現在、この製本技術が使われているものの一つが「束見本」です。
束見本は、本番で使用する紙を使い、実際の本と同じ製本方法で一冊を作った見本です。 完成したときの背幅や重さなどを事前に確認するために作られます。 大量に作るものではないため、こうした製本技術が現在も生かされています。
このほか、本の修理や個人で本を作る際にも、製本の技術が使われているという説明がありました。
ツアーの最後には、活字を作る際の原図をもとにしたコースターをいただきました。
コースターの左上にある「A1」は文字サイズと明朝体であることを示し、下部の数字は原図を最後に修正した日付を表しています。 館内に展示されている実際の原図にも、同じような記号や日付が残されていました。















実際の活字の原図を読み取って作られたコースター。「A1」は文字サイズと明朝体を示し、下部には原図を最後に修正した日付が残されています📚 活版印刷をさらに知る・体験する
市谷の杜 本と活字館では、活版印刷の工程を実際に見たり、活字を使った印刷を体験したり、世界各地の活版印刷について知ることもできます。

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