市谷の杜 本と活字館では、活版印刷に使われる道具に実際に触れながら、一筆箋を作るワークショップが開催されています。
今回体験したのは、現在では製造されていない飾罫線を使い、自分で版を組んで印刷する「活版飾罫線・植字編」。
ゲラやインテル、チェース、ファニチャーなど、普段はあまり耳にしない道具が次々と登場し、最後は卓上活版印刷機「テキン」で一筆箋を仕上げます。
実際に参加してわかった活版印刷の工程や道具、スタッフの方に教えていただいたことを、写真とともに紹介します。
市谷の杜 本と活字館で「活版印刷で一筆箋を作ろう!」に参加
2026年9月。市谷の杜 本と活字館で開催された「活版印刷で一筆箋を作ろう!=活版飾罫線・植字編=」に参加しました。
所要時間は約90分。
一筆箋に使う紙や飾罫線を自分で選び、飾罫線を植字して版を組み、卓上活版印刷機で10枚の一筆箋を印刷します。
ワークショップの最初には、活版印刷の仕組みについて説明がありました。
活版印刷は、凹凸のある版の凸になった部分にインキをつけ、紙に押しつけて印刷する方法です。
まずは一筆箋に使う紙選びから。
4種類の用紙が用意されていて、その中から好きな組み合わせで10枚を選びます。
私は4種類すべてを組み合わせて10枚選びました。
6種類の飾罫線から4種類を選んで植字する
続いて、一筆箋に印刷する飾罫線を選びます。
飾罫線は、線や囲いなどを印刷するために使われるもので、さまざまな模様があります。
今回用意されていたのは6種類。
その中から4本を選びます。同じものを4本選ぶこともできましたが、私はいろいろな線を印刷してみたかったので、異なる4種類を選びました。
ワークショップで使用する飾罫線は短く加工されていて、活字と一緒に組んで印刷できるよう、活字と同じ高さになっています。
最初に聞いた「凸になった部分にインキをつけて印刷する」という仕組みを思い出すと、なぜ高さをそろえる必要があるのかも分かります。
この飾罫線は現在では製造されていない貴重なものとのことでした。
飾罫線には上下が分かるよう表示されているものもあり、表示を上にして組めば見本と同じ模様になります。
あえて上下を逆にして使うこともできるそうです。
ゲラ・文選箱・インテルを使って版を組む
4種類の飾罫線を選んだら、いよいよ自分で版を組んでいきます。
ここで使う道具についても説明がありました。
ゲラは、活字組版を入れる浅い盆状の箱。
選んだ4本の飾罫線は、まずゲラの右側に置いておきます。
文選箱は、本来は活字棚から拾った活字を納めるための箱です。
今回は、この文選箱に木製のインテルが入っていました。
インテルは、版を組む際に行間を調整するためのものです。
組版は、インテルと飾罫線を組み合わせながら上に向かって組んでいきます。
最初にインテルを2枚入れ、その上に飾罫線を1本。
次にインテルを4枚入れて飾罫線を1本という作業を繰り返し、4本目の飾罫線を入れたあと、最後にインテルを2枚入れます。
細長い飾罫線とインテルを順番に並べていくと、先ほど選んだ4種類の罫線がひとつの版になりました。
組んだ版をチェースに固定して印刷の準備
版を組み終えたら、次は印刷できる状態にするための組み付け作業です。
ここからはスタッフの方が作業してくださいました。
使用するのがチェースと呼ばれる枠です。
チェースは、組み上げた活字や版を固定するためのもので、使用する卓上活版印刷機に合わせた大きさのものが使われます。
先ほど組んだ版をチェースの中央に置き、その周囲にファニチャーを入れて固定していきます。
さらに使うのが、青いジャッキーハンドルという道具です。
穴にジャッキーハンドルを差し込んでネジを回すと固定具が広がり、組版がしっかりと締め付けられていきます。
最後はチェースごと持ち上げて傾け、組んだ版が落ちてこないことを確認。
自分で並べたときにはまだ動く状態だった版が、これで印刷機に取り付けられるひとつの版になりました。
卓上活版印刷機「テキン」で一筆箋を印刷
組み付けが終わった版を卓上活版印刷機に取り付け、いよいよ一筆箋を印刷します。
使用するのは、先日の栞作りでも使った卓上活版印刷機、通称「テキン」です。
栞作りでは、円盤に広げられたインキをローラーが受け取り、版にインキをのせて印刷する仕組みについて教えてもらいました。
今回は、自分で組んだ4本の飾罫線を使って10枚の一筆箋を印刷していきます。
前回よりハンドルが重い?
実際にテキンのハンドルを動かしてみると、前回の栞作りのときとは感触が違いました。
前回はもっと軽く動かせたのに、今回はハンドルが重く感じます。
少し心配になり、「この間はもっと軽かったのですが、今日は重いのですが……」とスタッフの方に聞いてみました。
すると、テキンには機械による個体差があるほか、印刷する版の大きさによってもハンドルの重さが変わるとのことでした。
先日印刷したのは栞でしたが、今回は4本の飾罫線を組んだ一筆箋。
前回より広い範囲を印刷する版になっています。
同じテキンを使った活版印刷でも、機械や印刷する版によって、ハンドルを動かしたときの感触まで違うことを知りました。
円盤のインキは毎日きれいに落とす
先日の栞作りでは、印刷に使う油性インキには乾燥剤を入れておらず、完全に乾くまで2〜3日ほどかかることを教えてもらいました。
乾燥剤を入れないのは、作業中に円盤上のインキが乾いてしまうのを防ぐためです。
今回はさらに、円盤に広げたインキについても話を聞くことができました。
円盤上のインキは一日作業していても乾くことはなく、印刷量によって少なくなれば途中で足して使用するそうです。
一方で、作業をしていると円盤には埃などが付着します。
そのため、インキが乾いていなくても毎日きれいに落として清掃しているとのことでした。
清掃には危険物に分類される油を使用するため、スタッフの方は手袋をして作業するそうです。
持ち帰り用の封筒を作り、スタンプで一筆箋を仕上げる
印刷した一筆箋はインキがまだ乾いていないため、印刷面がこすれたり、ほかの紙にインキがついたりしないよう注意が必要です。
そこで、一筆箋を入れて持ち帰るための封筒も自分で作ります。
封筒作りには、製本道具の竹指輪と竹ベラを使いました。
あらかじめ用意された紙を折り、竹指輪や竹ベラを使って折り目をしっかりつけ、テープのりで貼り合わせて封筒にしていきます。
封筒ができたら、一筆箋と封筒をスタンプで飾ります。
いきなり一筆箋に押すのではなく、まずは別の紙で練習。
押し方やインキのつき具合を確かめてから、本番の一筆箋にスタンプを押しました。
大正3年の「活版見本帖」の図柄がスタンプに
用意されていたスタンプの中には、フクロウ、バレリーナ、ブドウの図柄があります。
これらの図柄のもとになっているのが、大正3年に秀英舎から発行された「活版見本帖」です。
館内には実際の「活版見本帖」も展示されていて、当時使われていたさまざまな図柄や飾罫を見ることができます。
その中から選ばれた図柄をもとに、現在のレーザー加工でスタンプの印面が作られているそうです。
100年以上前の見本帖に残された図柄を、今度はスタンプとして自分の一筆箋に使えるのが面白いところです。
このほかにも、本と活字館にちなんだ図柄のスタンプが3種類用意されていて、こちらは黒いインキで押すことができました。
4本の飾罫線を活版印刷した一筆箋に、それぞれ好きなスタンプを加えて仕上げていきます。
同じ版を使って印刷した10枚ですが、用紙のデザインやスタンプの組み合わせを変えることで、それぞれ違った一筆箋になりました。
刷りたての一筆箋は「間紙」を挟んで持ち帰る
刷りたての一筆箋には、「間紙(かんし)」と呼ばれる紙を1枚ずつ挟んでいきます。
間紙は、刷りたての印刷物の間に挟み、インキがほかの紙に移ったり、印刷面が汚れたりするのを防ぐための紙です。
先日の栞作りで、ここで使われている油性インキは完全に乾くまで2〜3日ほどかかると聞いていました。
そこで、家に帰ったら一筆箋をすべて並べて乾かしたほうがよいのか聞いてみると、間紙を挟んだままでも乾くとのことでした。
10枚の一筆箋に間紙を挟み、自分で作った封筒に入れて持ち帰ります。
最後は使った飾罫線のインキを拭き取る
一筆箋が完成したら、最後は使用した飾罫線の片付けです。
印刷に使った飾罫線の表面には赤いインキが残っているため、ウエスを使って自分たちで拭き取りました。
紙や飾罫線を選ぶところから始まり、植字、印刷、封筒作り、スタンプ、そして使った飾罫線の片付けまで体験して、約90分のワークショップが終了しました。
企画展で「花形活字母型」も見学
ワークショップでは、スタッフの方から、館内で開催中の企画展に花形活字の母型が展示されていることも教えていただきました。
企画展を見に行くと、鈴木活字店の展示の中に、さまざまな模様の花形活字母型が並んでいました。
先日の解説ツアーでも見ていた展示ですが、今回はスタッフの方に教えていただいた花形活字母型を改めて近くで確認しました。

「活版印刷で一筆箋を作ろう!」が行われた会場
席にはワークショップで使用する道具が用意されていました
6種類の飾罫線から4本を選びます。同じ模様を複数選ぶこともできます
活字と同じ高さに作られた金属製の飾罫線。現在では製造されていない貴重なものです














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