冬の静けさに包まれた日光山内を、ひとり歩く。
華やかな日光東照宮だけでなく、輪王寺や大猷院に流れる「静」の時間、そして五重塔の心柱が現代へとつながる驚きの技術。
人の少ない季節だからこそ出会えた、心に残る日光の一日を綴ります。
人の少ない季節に、静かな日光を歩きたくて
数年前、戦場ヶ原をトレッキングした帰りにバスで東照宮周辺を通った際、多くの観光客で賑わう様子を車窓から眺めました。 東照宮は数十年前に訪れた記憶があるものの、細部までは覚えておらず、輪王寺や日光二荒山神社を含む日光山内を「静かに」歩いてみたいという思いが、ずっと心に残っていました。
人出が落ち着くであろう冬なら、その願いが叶うのではないか。そう考え、今回、冬の日光をひとりで訪れることにしました。
神橋から始まる、日光山内への入口
日光駅前からバスに乗り、神橋バス停で下車。まずは神橋を眺めます。 神橋は二荒山神社の建造物で、木造朱塗りの美しい橋。はね橋という構造は日本でここだけの和橋で、日本三奇橋のひとつに数えられています。
料金を支払えば橋上を渡ることもでき、何人かの観光客が橋の上に立っていました。 道路を横断し、日光山内へ足を踏み入れると、先ほどまでの賑わいが嘘のように人影が少なくなり、空気が変わったのを感じます。
輪王寺・大護摩堂と三仏堂で過ごす静かな時間
足元に積雪はないものの、日陰には凍った箇所もあり、慎重に歩を進めます。空気はひんやりと澄み、自然と背筋が伸びる感覚。 やがて視界に入ってきたのが、輪王寺の大護摩堂です。日光山内最大の木造建築だけあり、その姿は圧巻でした。
堂内に入り、薄暗い空間を進んで三仏堂を見上げると、金色に輝く仏像が静かに佇んでいます。華やかさではなく「静」を感じる神々しさ。 参拝者が他にいなかったこともあり、しばらく手を合わせ、自分自身と向き合うような時間を過ごしました。
日光東照宮――「陽」の力に満ちた世界
続いて向かったのは日光東照宮。陽明門の前に立つと、その極彩色の輝きに思わず足を止めてしまいます。 この「陽」の雰囲気に引き寄せられるように、多くの参拝客が集まっていました。
三猿の彫刻も相変わらずの人気。三猿は人の一生を表した八面十六匹の猿のうち、幼少期を描いた第二面にあたります。 有名な「見ざる・言わざる・聞かざる」だけに目が向きがちですが、物語として捉えると、また違った見え方がしてきます。
眠り猫も多くの人がカメラを向けていましたが、その裏側に彫られた、花に囲まれた二羽の雀の存在を思い出し、静かに「再会」しました。
五重塔の心柱が教えてくれた、現代へ続く技術
今回、特に心に残ったのが、五重塔の初重内部心柱の特別公開です。 高さ36メートルの極彩色の塔は、見た目の美しさだけでなく、その構造にも驚かされます。
日光東照宮の五重塔の心柱は、礎石に固定されず、四重から吊り下げられた「懸垂式」。 塔身と分離したこの構造が免震の役割を果たし、幾度もの大地震を乗り越えてきたといいます。
さらに、この「心柱の不倒理論」が、東京スカイツリーの耐震構造にも活かされていると知り、江戸時代の知恵が現代へと受け継がれていることに深い感銘を受けました。
大猷院で出会う、静謐な「黒と金」の世界
日光二荒山神社を参拝した後、輪王寺大猷院へ向かいます。 家光公の霊廟であるこの場所は、夜叉門の牡丹の彫刻や四体の夜叉像、二天門など、息を呑むほどの美しさ。
東照宮のような華やかさや喧騒はなく、「黒と金」が織りなす重厚で静かな空間が広がっています。 人も少なく、心穏やかに歩くことができる、大人の日光散策にふさわしい場所でした。
明治の館で、旅を振り返る
散策の締めくくりは、明治時代に建てられた石造りの洋館レストラン「明治の館」。 蓄音機を日本に初めて紹介したF.W.ホーンの別荘として建てられた建物です。
食事をとりながら、静かな冬の日光山内を歩いた一日を振り返りました。 多くの人が知る名所だからこそ、季節を変え、歩く速さを落とすことで見えてくる景色がある。 そんなことを、改めて感じたひとり旅でした。











































訪問日:2026年1月27日(火)
往路:東京駅(東北新幹線)→ 宇都宮駅(JR日光線)→ 日光駅(バス)→ 神橋バス停
復路:往路の逆

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