上田の町を歩いていると、ふと目に留まる古い建物があります。
どこか懐かしさを感じるその佇まいの先に、今回の目的地である常田館製糸場がありました。
明治から続く製糸業の記憶が残る場所を歩き、そして町へ戻ると、今度はレトロな建物が点在する風景に出会う――。
この日は、上田の町に重なる「産業と暮らしの記憶」をたどるような一日となりました。
上田の町を歩いた先で出会った常田館製糸場
上田駅から歩いて向かう途中、すでにいくつかの古い建物が目に入っていました。
かつて医院だったのだろうかと思わせる木造の建物や、時代を感じる佇まいの家々。
そんな町並みの延長線上に、広い敷地をもつ常田館製糸場があります。
文献で知るだけではなく、実際にその空間を歩いてみたい――そんな思いで訪れました。
常田館製糸場とは|今も残る近代製糸業の遺構
常田館製糸場は、明治33年(1900年)に創業した製糸工場です。
現在も笠原工業株式会社の構内に関連施設15棟が残され、そのうち明治から大正時代に建てられた7棟は、国の重要文化財に指定されています。
日本の生糸は、時代とともに品質を高め、世界に輸出される重要な産業となりました。
その品質を安定させるためには、原料である繭の管理が欠かせません。
温湿度や通風、乾燥、保管といった細かな管理を徹底することで、均質な生糸が生み出されていたといいます。
ここには、その仕組みそのものが、建物として今も残されていました。
見学は無料で、受付で名前を記入し、案内を受けてから自由に回ることができます。
これだけの施設を維持管理しながら公開されていることに、まずありがたさを感じました。
防火のための鉄筋倉庫へ|繭がどれほど大切なものだったか
最初に向かったのは、大正時代に建てられた鉄筋コンクリート造5階建ての倉庫です。
案内板によると、かつて木造倉庫が繭とともに焼失したことを受け、防火性の高い建物として建てられたものだそうです。
現在では、県内でも最も古い高層RC建築のひとつになっているとのことでした。
外観は窓がほとんどなく、どこか閉ざされたような印象。
内部に入ると天井が高く、しっかりとした造りで、今でも使えそうに感じるほどです。
ただ、階段には手すりがありません。
もともと見学施設ではなく、倉庫として造られているためで、慎重に足を運びながら上へと進みます。
2階へ上がる途中、天井部分には鉄板をスライドさせる防火シャッターが設けられていました。
万が一火災が起きた際に延焼を防ぐ仕組みで、ここでも繭がいかに大切に扱われていたかを感じます。
木造5階建て繭倉庫を歩く|足元のきしみが伝えてくる当時の空気
次に向かったのは、木造の繭倉庫です。
通路を抜けて建物に入ると、内部には扉のない簡素なエレベーターがあり、壁には管理番号のような文字が残っていました。
階段を上がると、足元からミシミシと音が響きます。
板の隙間から下の階が見える場所もあり、思わず足がすくむような感覚でした。
スタッフの方から「5階まで上がれますが、無理しなくても大丈夫ですよ」と声をかけられたことを思い出します。
実際に歩いてみると、その言葉の意味がよくわかりました。
慎重に足を運びながら、この場所で働いていた人たちの姿がふと頭に浮かびます。
忙しく行き交っていたであろう空間に、今は静かな時間が流れていました。
倉庫の上から見えたもの|引き込み線と大量生産の記憶
5階まで上がると、「窓の風景」と書かれた案内がありました。
そこには、上田駅から煙突付近まで引き込み線が延び、トロッコが往復していたことが記されています。
石炭を運び、生糸を運び――この場所が大きな生産拠点だったことが伝わってきます。
年間で2400俵の生糸、繭にして80万キロもの原料が必要だったという規模。
広い敷地や巨大な倉庫の存在が、ここでようやく実感として結びつきました。
荒船風穴で見た景色とつながる|養蚕と製糸は続いたひとつの流れだった
この景色を見ていると、以前訪れた荒船風穴のことが思い出されました。
蚕種を天然の冷気で保存し、孵化の時期を調整することで、年間の生産量を増やしていた場所。
そこから生まれた繭が、この製糸場で管理され、均質な生糸へと加工されていく――。
点だった知識が、ひとつの流れとしてつながった瞬間でした。
煙突と桜が残る風景に、時代の移り変わりを見る
敷地内には、今も高く伸びる煙突が残されています。
その先に広がるのは、かつて工場があったと思われる広い空間。
現在は駐車場となっていますが、その一角に一本の桜の木が咲いていました。
ちょうど見頃を迎えた花を眺めながら、ここで働いていた人たちも、この景色を見ていたのかもしれないとふと思います。
製糸場のあとに歩きたい、上田のレトロな町並み
製糸場をあとにして町を歩くと、再びレトロな建物が目に入ってきます。
先ほど見た産業の記憶があるからこそ、町の風景もまた違って見えるようでした。
古民家パブと銭湯、映画館|今も息づく上田のレトロ建築
海野町商店街の手前には、上田映劇があります。
かつての商店街の名残を感じる看板の先に建つその姿は、どこか時代の空気を残しているようでした。
その近くにあるパブ「CHILL」は、あとで調べると100年以上前の古民家をDIYして営業しているとのこと。
古い建物が今も使われているということに、この町の時間の重なりを感じます。
教会へ向かう途中には、「柳の湯」という銭湯もありました。
昭和の面影を色濃く残すその佇まいは、今も地域の暮らしの中に息づいているように見えます。
柳町で出会う蔵造りの町並みと、上田らしい風景
柳町に入ると、親付き切子格子やなまこ壁の蔵が並び、落ち着いた町並みが広がっていました。
岡崎酒造や武田味噌といった老舗の店に立ち寄りながら歩く時間も、この町ならではの楽しみのひとつです。
教会や図書館をめぐりながら駅へ戻る
上田聖ミカエル及諸天使教会は、瓦屋根の木造建築で、一見するとお寺のようにも見えます。
しかし屋根の上には十字架があり、他ではあまり見かけない独特の姿をしていました。
その後、上田城へ向かう途中で出会った旧上田市立図書館の建物も印象的でした。
どこか可愛らしさを感じるレトロな外観が、町の風景に溶け込んでいます。
駅へ戻る途中には、上田新参町教会や「竹之湯」という銭湯も。
竹之湯はさらに時代をさかのぼったような、昭和初期を思わせる佇まいでした。
常田館製糸場と上田の町を歩いて感じたこと
常田館製糸場で見た建物や設備は、単なる遺構ではなく、当時の人々の知恵と工夫の積み重ねでした。
そして町に戻ると、その記憶はレトロな建物や風景として、今も静かに残されています。
文献だけではわからなかったことが、実際に歩くことで立体的に見えてくる。
上田の町は、そんな体験をさせてくれる場所でした。
常田館製糸場のアクセス情報
- 所在地:長野県上田市常田1-10-3(笠原工業株式会社内)
- 最寄り:上田駅お城口から徒歩約9分
- 見学:無料(受付で記名)
- 公開期間:3月20日〜11月30日
- 見学時間:10:00〜15:30(最終入場)
倉庫内の階段は手すりがなく、やや急な造りになっています。
歩きやすい靴での見学がおすすめで、足元に不安のある服装は避けた方が安心です。
上田駅から徒歩でアクセスでき、町歩きとあわせて訪れるのもおすすめです。


































訪問日: 2026年4月2日
📖 生糸をめぐる旅の記録
常田館製糸場で見た繭の保管や管理の仕組みは、これまでに訪れた場所での体験ともつながっていきます。
蚕種の保存から製糸へと続く流れをたどりながら、生糸産業の背景を少しずつ理解していく旅になりました。
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🏭 荒船風穴と富岡製糸場で体験した生糸の記録
蚕種の保存と製糸の工程を通して、生糸が生まれる仕組みに触れた旅 -
🚃 高崎で巡る世界遺産とだるま寺・白衣大観音の旅の記録
富岡製糸場を訪れ、生糸産業の歴史に出会った最初の旅 -
🏭 (準備中)シルクの町・岡谷で出会った近代産業の記録
製糸業の発展を支えた町を歩く旅(公開後にリンク予定)
📖 上田で出会った季節の風景
この日歩いた上田の町では、桜の景色も印象に残りました。
歴史ある町並みとともに楽しめる、春の上田の風景もあわせてご覧ください。
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🌸 上田の町を歩く桜散策の記録
上田城や町中で出会った春の風景をたどる散策記


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