東京発ひとり旅|再生する吉野梅郷を歩く。梅と記憶の春散歩

山・自然散策

2024年3月。
春の訪れを感じたくて、東京から電車で吉野梅郷へ向かいました。
かつて“桃源郷”と呼ばれたこの地は、ウメ輪紋ウイルスの被害で全伐採となり、いま再び若木たちが花を咲かせ始めています。
失われた景色と、再び芽吹く命。その対比に、時間の流れと生きることの儚さを感じるひとり旅になりました。


再生する吉野梅郷を訪ねて

かつては電車の窓からも見えるほど、見事な梅林が広がっていた吉野梅郷
「桃源郷」とも称された景色は、2014年に発生したウメ輪紋ウイルスによって一変しました。およそ3万本を超える梅の木が全伐採され、あの華やかな景観は失われてしまったのです。

それから7年。再植樹が進み、少しずつ花を咲かせる梅の若木たち。一見するとまだ寂しげにも感じますが、健気に空へ枝を伸ばす若い梅の姿は、生命の力強さそのものでした。

景色の変化と、時間の流れ

訪れてみると、かつての梅林の一部には新しい住宅地が立ち並び、景観もずいぶん変わっていました。梅の花だけでなく、周囲の街並みも変わり続けていることに、時間の重みを感じます。

足元の土も、風の匂いも、少し違っている気がして、ふと「昔の景色を知る自分」もまた変わっているのだと気づかされます。
「伐採前の梅林の景観に戻る頃、私はまだここを歩けているだろうか」
そんなことを考えながら、静かに若木の花を見上げました。

海禅寺と「目薬の水」不動明王

散策の途中、梅郷の坂を登った先にある海禅寺へ。
境内はこぢんまりとしていますが、静けさに包まれた心地よい場所です。近くには「目薬の水」として伝わる不動明王があり、今も地元の方々に大切にされています。

水の音が静かに響き、旅の途中で少し立ち止まりたくなるような癒しの時間でした。

ノコギリ屋根の工場跡

梅の香りに誘われながら歩いていると、ふと目に留まったのが織機工場跡のノコギリ屋根の建物。特徴的な屋根の形には理由があり、北側からの安定した光を取り入れるために、この形状が選ばれていたとのことです。

時代の変化の中で役目を終えた建物ですが、当時の知恵と職人の誇りを今に伝えるように、静かに佇んでいました。

おわりに|若木の梅に込められた希望

かつての華やかさとは違うけれど、いまの吉野梅郷には「再生」の美しさがあります。花の数はまだ少なくても、一輪一輪が強く咲いている。それはまるで、人生の歩みのよう。

失われても、また芽吹き、少しずつ花を咲かせていく。この春のひとり旅は、そんな命のリズムを静かに感じる時間になりました。きっと十年後、二十年後の梅郷もまた違う姿で、誰かの心を癒してくれるのでしょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました