岡崎で八丁味噌の伝統にふれる|カクキューとまるや、二つの味噌蔵を見学

カクキュー八丁味噌本社屋の外観 大人の社会科見学

2026年8月初旬、岡崎市にあるカクキュー八丁味噌(八丁味噌の郷)と、まるや八丁味噌の工場見学をしてきました。

味噌の工場見学に興味を持ったきっかけは、2026年4月に長野県岡谷市で訪れた松亀味噌。信州味噌の製造を見学したことで、今度は豆味噌である八丁味噌の製法も見てみたいと思うようになりました。

岡崎公園前駅から徒歩数分という近い場所にある二つの味噌蔵。どちらも昔ながらの製法を守り続けていますが、実際に見学してみると、それぞれ説明の視点や見どころが異なり、続けて見学したことで理解がより深まりました。

今回は、二つの味噌蔵を巡りながら知った八丁味噌づくりの魅力や、伝統を守り続ける職人たちの姿についてご紹介します。


岡崎で二つの八丁味噌蔵を巡る

「思い立ったが吉日」。そんな気持ちで岡崎へ向かいました。

真夏の暑さを考え、岡崎公園前駅には9時半ごろ到着。カクキュー八丁味噌とまるや八丁味噌は徒歩数分の距離にあり、最寄り駅は岡崎公園前駅または東岡崎駅が利用できます。

まずは10時からの工場見学に参加するため、カクキュー八丁味噌へ向かいます。途中には、午後に見学予定のまるや八丁味噌の前を通りました。工場から立ち上る湯気を見ただけで、味噌づくりが今も行われていることを実感し、期待が高まります。

なお、まるや八丁味噌では工場見学・売店とも午前9時から利用できるようでした。

カクキュー八丁味噌で伝統の製法を学ぶ

駅から5〜6分ほど歩くと、どこからともなく甘じょっぱい味噌の香りが漂ってきました。香りに導かれるように進むと、目の前に現れたのがカクキュー八丁味噌の本社屋です。

黒と白を基調としたモダンな洋風建築で、一見すると教会のような雰囲気。昭和2年に完成した建物とは思えないほど洗練された佇まいで、正面にはおなじみのカクキューマークが大きく描かれています。敷地内の建物にも屋号のマークが掲げられ、歴史ある味噌蔵であることを感じさせま

売店で工場見学を申し込むと、この日の受付は2番目でした。開始まで時間があったので、売店や資料展示を見学しながら過ごします。

売店横の展示スペースには、八丁味噌ができるまでを紹介したイラストや、石積みの説明、全国の味噌文化を紹介した展示などが並び、見学前の予習にもぴったりでした。



10時になるとガイドのスタッフが現れ、いよいよ工場見学が始まります。この日は夏休みということもあり、親子連れを中心に20名弱が参加していました。

本社屋の隣にある大きな鉄門が開き、いよいよ工場の敷地内へ入ります。裏側から眺める本社屋も窓枠などがレトロで趣があり、歴史ある建物であることが伝わってきました。

広い構内ではフォークリフトが忙しそうに行き交い、その奥にある建物の窓越しから工場内を見学します。窓ガラスの反射で写真は思うように撮れませんでしたが、八丁味噌が袋詰めされる様子を見ることができました。

ここで意外だったのは、工場の規模です。もっと大きな機械が並び、オートメーションで製造されているものだと勝手に想像していましたが、実際は人の手で行われる工程が多く、人が主役の工場という印象を受けました。ガイドの方のお話では、八丁味噌は固いため、袋詰めも一つひとつ手作業で行われているそうです。



続いて案内されたのは、工場見学でしか入ることのできない資料館です。売店横の展示スペースとは別の建物で、もともとは仕込み蔵として使われていた場所を資料館として活用しています。建物の前には実際に使われていた大きな木桶が並び、これから始まる説明への期待が高まりました。

最初に紹介されたのは、国鉄時代の岡崎駅に掲げられていた看板です。描かれているのは、後の豊臣秀吉と蜂須賀小六が矢作橋で出会ったという逸話。このデザインを復刻した八丁味噌は、この売店だけで購入できる限定商品だそうです。

さらに、「八丁味噌」という名前は岡崎城から八丁(約870メートル)の場所にあった八丁村に由来すること、カクキューは1645年創業で現在19代目まで受け継がれていることなど、八丁味噌の歴史についても教えていただきました。長い年月にわたり受け継がれてきた伝統の重みを、この時点ですでに感じました。



資料館には、大豆を蒸す工程から仕込みまでを再現した人形展示があり、ガイドの方が一つひとつ丁寧に説明してくださいました。

八丁味噌は、大豆を煮るのではなく蒸し、握りこぶしほどの大きさの味噌玉を作ります。その味噌玉に麹菌を付けて豆麹を作るという工程は、米味噌とはまったく異なる製法であることを初めて知り、とても驚きました。

さらに印象に残ったのが、昔の人の知恵です。当時は寒い時期に仕込みを行っていたため、1階で焚いた練炭の暖かい空気が、竹を編んだ天井の隙間を通って2階へ上がり、麹菌の発酵を助けていたそうです。展示には書かれていないガイドの方ならではのお話で、昔の人が自然の力を上手に利用していたことを知り、その知恵に驚かされました。

豆麹が完成すると塩と水を加えて仕込み、約1.8メートルもある木桶へ入れていきます。職人が桶の中に入り、「踏み込み」という作業で空気を抜いたあと、6トンの味噌の上に約3トンもの石を円錐状に積み上げ、二夏二冬、二年以上かけて自然のまま熟成させます。

現在も原料は大豆・塩・水だけ。木桶を使い、踏み込みや石積みもすべて人の手で受け継がれています。特に石積みは熟練した職人だけが任される仕事で、技術を身につけるまでには長い年月が必要だそうです。効率化が進んだ現代でも、創業当時からほとんど変わらない製法が受け継がれていることに驚かされました。



資料館の一番奥には、カクキューに現存する最も古い六尺桶や、その桶を作るための道具が展示されていました。かつては桶職人も社内にいたそうで、味噌づくりは多くの職人の技術によって支えられてきたことが伝わってきます。

また、戦火を免れた古文書や岡崎藩との関わりを示す史料、歴代の商品パッケージなども大切に保存されており、味噌づくりだけでなく、会社の歴史そのものが受け継がれていることを感じました。



続いて案内された味噌蔵では、円錐形に高く積み上げられた石を載せた木桶がずらりと並び、その光景はまさに圧巻でした。蔵いっぱいに広がる味噌の香りも印象的で、特に夏は香りが強く感じられるそうです。

見学の最後には試食も用意されていました。見学で学んだ八丁味噌を、その場で味わえるのも工場見学ならではの楽しみの一つです。赤だし味噌汁、八丁味噌を焼いたもの、味噌だれをかけた田楽の三種類です。

八丁味噌は豆味噌ですが、そこへ米味噌を合わせたものが赤だしになることも初めて知りました。最初は八丁味噌独特の力強い風味に少し驚きましたが、冷やしてあった味噌汁は角が取れてまろやかに感じられ、美味しくいただくことができました。

見学後には八丁味噌パウダーのお土産もいただきました。売店にはこのパウダーをかけた味噌ソフトクリームも販売されていて、自宅でもアイスクリームにかけて試してみようと楽しみが広がります。

八丁村で味噌煮込みうどんのランチ

工場見学の後は、敷地内にある「八丁村」で少し早めのランチをいただくことにしました。

注文したのは平日限定のランチ(味噌煮込みうどん・ご飯・漬物付き)。運ばれてきた味噌煮込みうどんは湯気が立ち上るほど熱々です。

最初の一口は、やはり八丁味噌ならではの濃厚で力強い風味に少し戸惑いました。しかし、食べ進めて少し冷めてくると味がまろやかに感じられ、気が付けばスープまで美味しくいただいていました。先ほど試食した赤だし味噌汁も同じでしたが、温度によって印象が変わるのも面白い発見でした。

レストランの壁の上部には、実際に石積みされた味噌桶を見ることができ、食事をしながらも八丁味噌の世界に浸ることができました。

まるや八丁味噌でさらに理解が深まる

昼食後は、徒歩数分の場所にある「まるや八丁味噌」へ向かいます。

受付を済ませると見学開始まで少し時間があったため、売店で上映されていた紹介映像を見ることにしました。

これがとても良い復習になりました。カクキューで製造工程を学んだあとだったので、木桶や石積みについての説明がより理解しやすくなったのです。

映像では、六尺桶は吉野杉で作られ、一つ完成するまでに約三年かかること、一度作ると百五十年ほど使い続けられることなどが紹介されていました。

さらに印象に残ったのは石積みです。土台となる大きな石を円形に並べ、その上へ一つひとつ石を積み上げていきます。最後に載せる「まんじゅう石」という名前も印象的でした。

映像には実際の石積み職人も登場し、「石には顔があるので、それを見極めながら積んでいく」というお話をされていました。



ただ重ねるだけではなく、石の向きや力のかかり方まで考えながら積み上げることで、何トンもの重さを何年にもわたって支え続けるのだそうです。技術を身につけるまでには長い年月が必要と聞き、その奥深さに驚きました。

まるや八丁味噌は1337年創業。カクキューよりさらに古い歴史を持ちます。製造しているのは同じ八丁味噌と赤だし味噌ですが、木桶や積み石を使った昔ながらの製法を守り続けている点も共通しています。



工場見学は少人数で始まりました。こちらも冷房などは使わず、自然の環境の中で味噌づくりが行われています。工場内では人の手による作業が多く、ここでも人が主役であることを実感しました。

味噌蔵には円錐状に石が積まれた木桶が並び、その横ではちょうど石積み職人の見習いの方が親方から指導を受けながら作業をしていました。

親方でも一つ積み終えるまでに数時間かかると聞き、その重労働ぶりが伝わってきます。

さらに案内された井戸は、かつて仕込みに使われていたものです。「石投げの井戸」と呼ばれ、豊臣秀吉が日吉丸と名乗っていた頃の逸話も紹介されていました。

館内には世界各国へ輸出されている商品の展示や、実際に使われる石の展示などもありました。地震でも崩れない石積みの仕組みや、味噌蔵に使われる建材についても詳しく知ることができました。



特に印象に残ったのは、江戸時代から使われている味噌蔵です。釘をほとんど使わず、木材と土壁だけで造られた建物には、長い年月をかけて乳酸菌や酵母、常在菌が住み着いているそうです。同じ原料、同じ製法で仕込んでも、それぞれの蔵に住み着く菌によって味わいが変わるというお話はとても興味深く感じました。

木桶も百年ほど使われますが、竹は三十年ほどで寿命を迎えるため、その後は金属の「たが」で補強しながら使い続けるそうです。伝統とは昔のまま残すことではなく、必要な部分を工夫しながら受け継いでいくことなのだと感じました。

見学の最後は田楽の試食です。見学で学んだ八丁味噌を、その場で味わえるのも工場見学の楽しみの一つでした。お土産にはゴールド赤だし味噌をいただきました。

二つの味噌蔵を巡って感じたこと

二つの味噌蔵を続けて見学したことで、八丁味噌への理解は想像以上に深まりました。



カクキューでは製造工程を体系的に学び、まるやでは石積みや味噌蔵、そこに住み着く菌などについてさらに詳しく知ることができました。最初の見学で聞いた内容が二つ目の見学で改めて腑に落ちたり、新しい知識が補完されたりと、私にとっては、二社を巡ったことで初めて一つの学びとしてつながったように感じました。

もし一か所だけ見学するなら、味噌づくりの工程をじっくり学びたい方にはカクキュー、石積みや味噌蔵を間近で見て伝統の技術に触れたい方にはまるやがおすすめです。



今回最も心に残ったのは、何百年もの間、変わらない製法を守り続けてきた人たちの存在でした。

戦後、日本では効率化やオートメーション化が急速に進みました。しかし、ここでは今も木桶を使い、石を積み、人の手で味噌を育てています。その姿は時代に逆らっているのではなく、本当に守るべきものを守り続けてきた結果なのだと感じました。

そして、その伝統は味噌蔵だけでは成り立ちません。木桶を作る桶職人、その道具を作る職人、石積みを受け継ぐ職人など、多くの人たちの技術があって初めて守られていることも知りました。



同じ原料、同じ製法で仕込んでも、それぞれの蔵に住み着く菌が異なることで、それぞれの味が生まれる。

何百年という時間そのものが、それぞれの味噌蔵だけの個性を育ててきたようにも思えました。

これから八丁味噌を目にするたびに、その味だけではなく、伝統を受け継いできた職人たちや味噌蔵の風景を思い出しながら味わいたいと思います。

カクキュー八丁味噌の店内
日本各地の味噌文化を紹介する展示
カクキュー八丁味噌の工場見学集合場所
カクキュー八丁味噌の工場敷地
カクキュー工場で味噌を袋詰めする作業
カクキュー八丁味噌の資料館外観
六尺桶が並ぶカクキュー八丁味噌の資料館前
国鉄時代の岡崎駅に掲げられていたカクキュー八丁味噌の看板
八丁味噌の製造工程を再現した展示
石を積んだ六尺桶が並ぶ味噌蔵
石積みの六尺桶が並ぶ味噌蔵全景
赤だしと味噌こんにゃくの試食
岡崎カクキュー八丁村レストラン入口
八丁村レストランの店内
八丁味噌煮込みうどん定食
レストランから見える六尺桶
まるや八丁味噌蔵見学入口
八丁味噌の製造工程パネル
尺桶が並ぶまるや八丁味噌の味噌蔵
石を積んだ六尺桶
石積み作業を行う職人
親方と若い職人による石積み作業
日吉丸の石投げ井戸
石積みに使われる石の展示
まるや八丁味噌の歴史を感じる看板
江戸時代から使われるまるや八丁味噌の味噌蔵
旧東海道に面したまるや八丁味噌の建物
味噌こんにゃくの試食
八丁味噌パウダーと赤だし味噌のお土産

🏭 日本のものづくりにふれる旅

日本各地で受け継がれてきたものづくりや伝統産業を見学した記録です。
工場見学や展示を通して、その技術や歴史、職人たちの想いにふれた記事をご紹介します。

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