以前と変わらない町家や浅野川の風景。それなのに、久しぶりに訪れた夜のひがし茶屋街と主計町は、3年前とはずいぶん違って見えました。
細い路地の先にあるあかり坂・暗がり坂を巡り、浅野川沿いを梅ノ橋まで。変わった光景に戸惑いながら、変わらず残る静けさにも出会った夜散歩です。
3年ぶりに、夜の茶屋街を歩く
2023年3月、金沢滞在中の夜に、ひがし茶屋街と主計町茶屋街をひとりで歩きました。
昼間のにぎわいが嘘のように人影がなくなり、格子戸の町家や浅野川沿いの灯りが静かに浮かび上がる夜。
あかり坂や暗がり坂でも誰にも会わず、暗い路地をひとりで歩いたことを覚えています。
それから3年。
2026年8月、久しぶりに同じ場所を夜に歩いてみました。前回の静かな夜が印象に残っていて、もう一度あの雰囲気の中を歩いてみたいと思っていたからです。
夜でも人が行き交う、ひがし茶屋街
最初に向かったのは、ひがし茶屋街です。
前回は夜になるとほとんど人影がなかったのですが、今回は様子が違いました。
夜になっても通りには外国人観光客の姿が多く、あちらこちらで写真撮影に忙しそうです。私が歩いた時間帯には、日本人観光客の姿を見かけなかったことにも驚きました。
町家が並ぶ風景そのものは、以前と大きく変わっているわけではありません。
それなのに、3年前の静かな夜を覚えているからか、目の前に広がる光景はずいぶん違って見えました。
浅野川沿いの主計町茶屋街へ
ひがし茶屋街から浅野川を渡り、主計町茶屋街へ。
川沿いには格子戸の町家が並び、窓から漏れるやわらかな灯りが浅野川の夜によく似合います。
この風景は、以前歩いたときとそれほど変わっていないように感じました。
ただ、ここでも外国人観光客の姿を多く見かけました。
川沿いのお店へ外国人観光客が二組続けて入っていくのを見かけ、前回は日本人のお客さんが入っていく姿を見たことを思い出しました。
同じ町並みを歩いているのに、そこにいる人たちが変わるだけで、町の印象まで少し違って感じられます。
細い路地の先にある「あかり坂」
主計町には、町家と町家の間を縫うような細い路地があります。
あかり坂へ向かう道も、「この先に坂があるの?」と思うほどの細さ。
観光地を歩いているというより、町家の間へ入り込んでいくような道の先に、石段が現れます。
この石段が「あかり坂」と名付けられたのは2008年。
もともとは名前のない坂でしたが、地元の人たちから依頼を受けた、主計町ゆかりの作家・五木寛之氏によって名付けられたそうです。
前回は誰にも会わなかった場所ですが、
今回はこんな細い路地でも何人もの外国人観光客と出会いました。
人ひとりが歩くには十分でも、向こうから人が来るとすれ違うのが難しいほどの狭さ。立ち止まって相手が通り過ぎるのを待つこともあり、「こんな場所までよく知られているんだ」と驚かされました。
もうひとつの細道から「暗がり坂」へ
続いて向かった暗がり坂も、細い路地の奥にあります。
こちらは、かなり以前から「暗がり坂」と呼ばれていた坂。
かつて主計町へ通う旦那衆が、人目を避けてこの坂を利用していたといわれています。
2023年に訪れたときは、あかり坂でも暗がり坂でも誰にも会いませんでした。
特に暗がり坂は人の気配がなく、足元を確かめながら歩いたことを覚えています。
これだけ暗くて人目につきにくい道なら、旦那衆が人目を避けて歩くには確かに好都合だったのだろうと、そのときは妙に納得しました。
とはいえ、現代の金沢、それも観光地のすぐそばに、女性ひとりでは心細く感じるほど暗く静かな道があることにも驚きました。
「こんなところで突然誰かと出会ったら、かえってドキッとするだろうな」と思いながら歩いていたので、昔のお忍びのような情緒を味わう余裕はありませんでした。
ところが今回は、暗がり坂にも観光客の姿がありました。
前回は人がいなさすぎて心細く、今回は人がいて落ち着かず。結局今回も、昔のお忍びのような情緒を味わう余裕はありませんでした。
同じ坂なのに、3年前とはまったく違うことを感じながら、再び浅野川沿いへ戻りました。
浅野川沿いを歩いて、梅ノ橋へ
浅野川沿いを歩き、浅野川大橋から梅ノ橋のほうへ向かいます。
途中、小さな公園の暗がりに外国人の二人連れがいました。
「こんな暗いところで何をしているんだろう?」と思いながら通り過ぎると、後ろから車のヘッドライトが差してきました。
眩しさに振り返ると、やってきたのは一台のタクシー。
二人はそこでタクシーを待っていたようです。
もう一度歩きたかった、夜の梅ノ橋
やがて梅ノ橋へ。
ここは前回歩いたときから、もう一度夜に訪れたいと思っていた場所です。
梅ノ橋は、歩行者と自転車だけが通る橋です。
欄干は木製ですが、橋そのものは鋼橋。夜は木の質感まではそれほど目立たないものの、橋の端から反対側まで続く、ゆるやかに湾曲した姿がきれいに浮かび上がります。
電灯も暗すぎず、明るすぎず。
その中をゆっくり歩いていると、なぜかほっとします。
今回も観光客の姿はなく、地元の方らしい一人とすれ違っただけでした。
そういえば前回も、この橋ですれ違ったのは地元の方らしい一人だけ。ひがし茶屋街や主計町で感じた変化とは対照的に、ここには以前と変わらない静かな時間が残っていました。
この梅ノ橋と浅野川大橋の間は、私にとって子どもの頃の記憶が残る場所でもあります。
当時は浅野川や犀川で、加賀友禅についた糊や染料を川で洗い流す「友禅流し」を見かけることがありました。
少し大きくなった頃には、いつの間にかその光景を見なくなりましたが、今でも浅野川を見ると、川の中で反物を洗っていた光景を思い出します。
夜の梅ノ橋を歩いていると、どこか懐かしく、ほっとするのは、そんな昔の記憶がこの川の風景と重なるからなのかもしれません。
橋を渡って反対側から振り返り、浅野川の先に見える天神橋を眺めました。
変わらない風景と、変わって見えた光景
この日はすっかり遅くなり、最後には終バスを逃してしまいました。
私もタクシーを拾い、運転手さんに、以前に比べて外国人観光客がずいぶん増えたように感じたことを話してみました。
すると運転手さんも、茶屋街や主計町では外国人観光客がとても多くなったと話していました。
訪れてくれることはありがたいけれど、ここまで外国人ばかりになると少し複雑だね、と。
3年前と比べても、町家が並ぶ茶屋街も、浅野川も、細い路地も、二つの坂も、風景そのものが大きく変わったわけではありません。
それでも、そこを歩く人たちが変わると、同じ場所なのに目の前の光景はこんなにも違って見えるのかと、驚きと少しの戸惑いが残りました。
そんな夜の最後に歩いた梅ノ橋には、3年前と変わらない静けさがありました。
浅野川を眺めながら、もっと昔の金沢まで思い出したことも、今回の夜散歩で心に残った時間でした。



2023年3月に訪れたときは、人影のない静かな夜でした。
2023年3月に歩いた、浅野川沿いの主計町茶屋街。





2023年3月の暗がり坂。坂を下ると、主計町の町並みが見えてきます。




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