東京都渋谷区の鳩森八幡神社には、江戸時代の富士信仰を今に伝える「千駄ヶ谷の富士塚」があります。
2026年11月1日、東京都の文化財ウィーク期間中に訪れ、実際に登拝してきました。
小さな富士塚ですが、登山道には岩が重なり、合目表示や富士山の名所を模した見どころが次々と現れます。
今回は富士塚の登拝体験を中心に、将棋堂やガラス張りの能楽殿など、鳩森八幡神社の境内も紹介します。
鳩森八幡神社と千駄ヶ谷の富士塚
JR千駄ヶ谷駅から約5分歩いて鳩森八幡神社へ。境内には東京都指定有形民俗文化財「千駄ヶ谷の富士塚」があります。
訪れた日は文化財公開を知らせる旗が掲げられ、富士塚のそばには登山道と下山道を色分けした案内板が設置されていました。
富士山を模した色鮮やかな絵図には、山中の見どころも描かれています。これから登る小さな山にどのような場所があるのか、期待が高まりました。
都内最古とされる千駄ヶ谷の富士塚
千駄ヶ谷の富士塚は、寛政元年(1789年)に築かれたと伝えられています。大正12年(1923年)の関東大震災後に修復されていますが、都内に現存する富士塚の中では最も古いとされる貴重な遺構です。
富士塚は、江戸時代に広まった富士信仰を背景に、富士山へ出かけなくても登拝できるように造られた人工の山です。
文化財ウィークで配布されていた解説カードによると、富士塚は円墳状に土を盛り上げた造りで、富士山の溶岩である黒ボクは山頂付近にのみ配置されています。山腹には丸石が置かれ、土が露出する部分にはクマザサも植えられています。
また、塚の前面には築造時に土を採掘した場所などを利用して造られた池があります。円墳状の盛り土と前方の池という形は、江戸時代に築かれた富士塚の基本様式とされています。
千駄ヶ谷の富士塚に登拝|一合目から山頂へ
富士塚の入口には石鳥居が建ち、左右には狛犬が置かれています。鳥居の先には自然石を使った階段が続き、登山道の案内に従って登拝を始めました。
登山道と下山道は分けられ、訪問時は案内に従って一方通行で歩くようになっていました。ほかにも通路と思われる場所がありましたが、通行できない状態でした。
実際に歩いてみると、登山道は想像以上に細く、大小の岩が不規則に重なっています。日曜日だったため家族連れも多く、幼稚園児くらいの子どもが大人より器用に岩場を歩いているように見えたのが印象的でした。小さな富士塚ですが、足元を確かめながら慎重に進む必要があります。
最初の見どころ・里宮
登り始めて最初に現れるのが里宮です。自然石が積まれた山腹に御影石の小さな社が設けられています。
山頂の奥宮とともに、富士塚の中に設けられた信仰の場所の一つです。
合目表示と小御嶽石尊大権現
登山道には合目を示す案内が設置されており、富士山を登っているような気分を味わえます。
途中には「小御嶽石尊大権現」の石碑もありました。小御嶽は富士山五合目付近にある信仰の場所として知られ、富士塚にもその信仰が取り入れられています。
亀岩・食行身禄像・烏帽子岩
さらに進むと、「亀岩」「食行身禄像」「烏帽子岩」などの案内が現れます。岩の間に小さな標識が立てられ、富士山の名所や富士信仰に関わる場所を確認しながら登れるようになっています。
食行身禄は江戸時代の富士講の発展に大きな影響を与えた人物です。千駄ヶ谷の富士塚では七合目に洞窟が設けられ、その中に身禄像が安置されています。
岩に囲まれた小さな空間に像が安置され、しめ縄と紙垂が掛けられていました。
山頂の奥宮
里宮や食行身禄像など、途中の見どころを一つずつ確認しながら登っていくと、思いのほか早く山頂に到着しました。「もう奥宮なんだ」と感じるほど、登拝の距離は短いものでした。
山頂には奥宮が安置され、周囲には黒い岩が積み重なっています。文化財ウィークの解説カードによると、富士山の溶岩である黒ボクは山頂付近にのみ配置されているそうです。
金明水・銀明水と釈迦の割れ石
奥宮の付近には、金明水と銀明水の案内もあります。
金明水と銀明水は富士山にある湧水の名所として知られています。千駄ヶ谷の富士塚にもそれぞれの場所が表現されており、小さな山の中に富士山の名所が再現されていることに驚きました。
さらに、金明水の後ろには「釈迦の割れ石」もありました。山頂付近まで富士山にちなんだ見どころが配置されており、小さな富士塚の中に多くの要素が詰め込まれています。
山頂から境内を眺め、岩場の下山道へ
登っている間はあっという間に感じましたが、山頂から境内を見下ろすと、思っていたよりも高さがあることに驚きました。
眼下には鳩森八幡神社の社殿や境内の木々が広がり、地上から眺めていた富士塚とはまた違った景色を楽しめます。
下山は案内に従って専用の道を進みます。こちらも岩が多く、足を置く場所を選びながら慎重に下りました。
登山道と下山道が分かれているため、狭い道ですれ違う必要はありませんでした。ただし、下山道も足場が不規則で、短い距離だからといって油断はできません。
鳩森八幡神社の境内にある見どころ
鳩森八幡神社の社殿
富士塚のほかにも、鳩森八幡神社の境内には見どころがあります。
社殿の前には石段があり、周囲の木々が境内を包んでいます。富士塚の山頂からも社殿を眺めることができました。
将棋堂|大山康晴十五世名人が奉納した大駒
境内にある六角形の将棋堂は、将棋とのゆかりを伝える建物です。
昭和61年(1986年)、大山康晴十五世名人から高さ1.2mの欅製の大駒が奉納されました。大駒は御影石の将棋盤の上に置かれ、その奥には八幡神が祀られています。
普段は扉が閉められており、訪問時も内部を見ることはできませんでした。毎年1月には将棋堂祈願祭が行われ、プロ棋士なども参列するそうです。
建物の周囲には将棋の上達を願う絵馬が掛けられていました。
能楽殿
境内にはガラス張りの能楽殿もあります。伝統的な社殿や石造物が並ぶ境内にあって、大きなガラス面を持つ建物はひときわ異なる雰囲気でした。
甲賀稲荷社と神明社(千駄ヶ谷太神宮)
境内には末社も祀られています。
甲賀稲荷社には朱色の鳥居が連なり、石鳥居の奥に続く参道が印象的でした。
一方、神明社(千駄ヶ谷太神宮)は竹林を背景に鎮座しています。石灯籠が置かれた小さな社で、朱色の鳥居が並ぶ甲賀稲荷社とは異なる、落ち着いた雰囲気がありました。















🗻 都内の富士塚めぐり
文京区の駒込富士神社にも、登拝できる富士塚があります。急な石段を登った先には山頂の社殿があり、千駄ヶ谷とは異なる富士塚の姿を楽しめました。

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