春宮から秋宮へと歩いたあと、もうひとつ訪れたかった場所がありました。 それは、地図で見つけた「ニデックオルゴール記念館すわのね」。 下諏訪の町に響くオルゴールの音に誘われるように、静かな午後のひとときを過ごしました。
オルゴールの音色に包まれる館内
秋宮を後にして、「しもすわ99分のまちあるきマップ」を眺めながら向かったのは、 ニデックオルゴール記念館すわのね。 マップを見たときから気になっていた場所で、次の電車までの限られた時間の中でも、どうしても立ち寄りたかった場所でした。
入口をくぐると、館内にはオルゴールのやさしい音色が流れ、 時間の流れが少しゆるやかになるような空気に包まれます。
ちょうど「2階でガイドツアーを行います」と案内があり、 1階の売店を横目に2階へ。 いくつかのオルゴールを実際に奏でながら、 担当の方が仕組みや歴史を丁寧に説明してくれました。
手回しオルゴールの体験では、自分の手でリズミカルに回して音を出しますが、 これが意外と難しい。 それでも、かすかに響く音の重なりが、なんとも愛おしく感じました。
ツアーの途中で出されたクイズ。 「オルゴールはどこの言葉でしょう?」 皆が外国語を思い浮かべる中、答えはまさかの“日本”。
江戸時代にオランダから伝わった自動演奏装置「オルゲル(オルガンの意味)」が、 いつしか“オルゴール”と呼ばれるようになったのだそうです。 英語では“ミュージックボックス”と呼ばれることにも、思わず頷きました。
ツアー後は電車の時間の関係で、1階の売店をゆっくり見ることはできませんでしたが、 オルゴールの組み立て体験もできるそうで、 次に訪れるときはぜひ挑戦してみたいと思いました。
そして後日、再びこの場所を訪れる機会があり、 思いがけず特別な展示に出会うことになります。
再訪で出会った特別展示「オルゴールが紡いだ80年」
2026年のゴールデンウィークに下諏訪を再訪し、町を散策する中で再びニデックオルゴール記念館すわのねに立ち寄りました。
するとちょうど、企画展「オルゴールが紡いだ80年—音と技術の継承—」が開催されており、そのガイドツアーに参加することができました。
会場は通常のガイドツアーが行われる2階ではなく、1階の展示室。
展示では、米国の骨董店で発見・寄贈された同社現存最古の木製宝石箱オルゴールや、電動カード式の140弁オルガニート、大型シリンダー式のマンモスオルゴールなど、貴重な機器が初公開され、その音色を実際に聴くことができました。
写真撮影はできませんでしたが、どれも印象に残るものばかりで、音そのものに集中できる時間でもありました。
ガイドツアーは、三協精機製作所の年表をたどりながら進みます。
昭和21年、諏訪の3人の精密技師によって創業された同社は、戦後GHQの指導のもと、平和産業としてオルゴール製作を開始しました。
当初は思うような音が出ず、バケツの底を叩いたような音だったそうですが、やがて箱根細工と組み合わせた土産物として展開されるようになります。
その中に使われていたオルゴール機構に、アメリカ人バイヤーが注目。
刻印の「sankyo」という文字だけを頼りにオファーを送りますが、なぜか東京の同名の製薬会社に届いてしまいます。
不思議に思った受付の方が調べ、諏訪のこの小さな会社へ届けたことで、やがて大きなビジネスへと発展していったというエピソードも紹介されました。
そのきっかけとなった木製宝石箱オルゴールは、日本的な意匠が施されたものでした。
その音色を聴いていると、海を渡ったオルゴールが人と人の縁をつなぎ、時を越えて戻ってきたような、不思議な感覚に包まれます。
また、戦後にフィリピンで収容されていた旧日本兵が作った『モンテンルパの夜は更けて』という曲のオルゴールが紹介され、その音色に心を動かされた当時のフィリピン大統領が、日本兵の送還を決断したというエピソードも語られました。
静かに流れる音色の中に、当時の人々の想いや時代の空気が重なり、胸に残る時間となりました。
展示では、黒電話の保留音やオルゴール付きの宝石箱、吊り下げ式のメリーなど、昭和の暮らしを感じさせる品々も並びます。
懐かしい品々に、参加者からは「あった、あった」「家にあったね」といった声も聞こえてきました。
中には、傾けると音楽を奏でるティーポットといったユニークなものもあり、思わず感嘆の声が上がります。
なお、オルゴール部分は取り外せる設計になっており、実用面にも配慮されているとのことでした。
特に印象的だったのは、140弁オルガニート。
幅の広いカードを差し込んで演奏する繊細な仕組みで、わずかなズレでも音が止まってしまいます。
実際の演奏でも途中で調整が必要になりましたが、それによって音が再び流れ出す様子に、機械でありながらどこか生き物のような存在感を感じました。
こうしたオルゴールは単なる音響装置ではなく、精密機械としての側面も持っています。
そこで培われた技術は、銀行ATMのカードリーダーや家電製品のモーターなど、さまざまな分野に応用されているのだそうです。
やさしい音色の裏側にある技術の積み重ねを知ることで、オルゴールという存在をより深く感じることができました。
次に訪れるときは、組み立て体験にも参加してみたいと思います。


















訪問日:2025年9月30日(火)
🧵 諏訪をめぐるひとり旅の記録
下諏訪から上諏訪へ、音と文化に触れながら歩いた一日。
その旅の流れをまとめた記事はこちらです。
📖 技術と文化に触れる旅の記録
オルゴールの音色の背景には、精密な技術の積み重ねがあります。
そんな“ものづくり”の歴史に触れた旅の記録もあわせてどうぞ。
🌿 静かな時間をめぐる下諏訪の散策
音に包まれる静かな時間のあと、外を歩くと、また違った静けさに出会います。
慈雲寺や本陣岩波家で過ごした、しっとりとしたひとときもあわせてどうぞ。


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