2026年8月。東京証券取引所・東証Arrowsのガイドツアーに参加しました。
「株式市場は20世紀最大の発明品です。一つだけ覚えて帰ってください」
見学の最初に聞いたこの言葉が、今回いちばん強く残っています。
株式投資をしていなくても、銀行や保険、年金などを通して、株式市場は思っていた以上に私たちの暮らしとつながっていました。
現在の東証Arrowsを歩きながら、かつて約2,000人もの人が集まって取引していた立会場の歴史や、ハンドサインを使って売買していた時代の話も聞きます。
見学を通して見えてきた、株式市場と東京証券取引所、それぞれの役割と歴史。
今回は、ガイドツアーで聞いた話を中心に振り返ります。
東京証券取引所、東証Arrowsの見学へ
東京・日本橋兜町にある東京証券取引所。
その中にある見学施設「東証Arrows」を訪れました。
マーケットセンターを囲むように流れるチッカー、株価ボード、上場の鐘。
テレビのニュースなどで目にする場所を巡りながら、ガイドさんの説明を聞いていきます。
その中で、ガイドさんがこんな言葉を口にしました。
「一つだけ覚えて帰ってください。株式市場は20世紀最大の発明品です」
株式市場が20世紀最大の発明品?
株をしていない私には、最初は少し大きな言葉にも聞こえました。
株をしていなくても、株式市場と無関係ではない
今回の見学で特に印象に残ったのが、株式市場と私たちの暮らしとのつながりについての話でした。
株式市場というと、株を売ったり買ったりする人たちのための場所というイメージがありました。
けれど、株を持っていなくても、銀行に預けたお金や保険料、年金などを通して、私たちのお金はさまざまな形で運用されています。
一方、企業は株式市場を通して事業に必要な資金を調達し、新しい商品やサービスを生み出していきます。
ガイドさんが例に挙げたのが、Google、Apple、Facebook(現在のMeta)、Amazon、MicrosoftのGAFAMでした。
スマートフォンを使ったり、ネットで買い物をしたり、検索をしたり、パソコンを使ったり。
どれも今では日常の一部になっています。
企業が資金を集め、新しい商品やサービスを生み出す。
そこで働く人がいて、私たちは生まれた商品やサービスを利用する。企業が成長すれば、さらに新しいものが生み出され、お金もまた動いていきます。
「株式市場」と聞くと、自分とは少し離れた世界のように感じていましたが、話を聞いているうちに、その仕組みは思っていた以上に普段の暮らしにつながっているのだと感じました。
現在の東証Arrowsを歩く
話を聞きながら、東証Arrowsの中を歩いていきます。
中央にある円筒形のマーケットセンターはガラス張り。
これは市場の透明性や公正性を表しているそうです。
その周囲を流れているのが、株価などを表示するチッカーです。
株価が前日より上がると赤、下がると緑で表示されます。
日本では赤がおめでたい色とされているため、上昇を赤で表しているとのこと。
また、取引が活発になると表示する情報も増えるため、チッカーの流れる速度も変わります。
上場セレモニーなどで使われる「上場の鐘」もあります。
鐘を鳴らすのは5回。ガイドさんによると、五穀豊穣になぞらえ、企業や市場の発展を願う意味が込められているそうです。
現在の東証Arrowsはとても静かです。
ところが、かつてこの場所では、今とはまるで違う光景が広がっていました。
約2,000人がひしめいた、かつての立会場
廊下に並ぶ歴史パネルの前で足を止め、東京証券取引所の歴史について話を聞きました。
コンピューターで取引が行われるようになる以前、立会場には多い時で約2,000人もの証券会社の社員が集まり、人の手によって株式の売買が行われていました。
立会場で売買注文を取り次ぐ人たちは、「場立ち」と呼ばれていました。
当時の立会場では、左右の壁側に証券会社のブースが並び、店舗との間で注文や取引結果の連絡を行っていました。
ブースで注文を受けると、場内にいる同じ証券会社の仲間へ、手を使った合図で注文内容を伝えます。
それを正確に読み取った担当者は、大勢の人をかき分けながら場内中央へ。
中央には実際に売買が行われる「取引ポスト」が複数あり、銘柄によって場所が決まっていました。
担当者は該当する取引ポストまで移動し、そこで注文を伝えていたそうです。
注文を伝えるためのハンドサインは東京証券取引所の場内で統一されており、売りと買いも手のひらと手の甲を使い分けて表していました。
さらに、会社名や銘柄を伝えるためにもさまざまなハンドサインが使われていました。
たとえば日本郵船なら船を漕ぐような仕草、東京海上なら波を表すような動き。日産は「2」と「3」を指で示してから、ハンドルを握る仕草で表します。
大勢の人で埋まった立会場で、離れた仲間の合図を見つけて正確に読み取り、該当する取引ポストまで人をかき分けて移動する。
そのため体力だけでなく、目が良いことも求められたそうです。
ガイドさんは「昔は体力勝負!」と話していました。
実際にこの仕事をしていた人から聞いても大変だったそうで、ラグビーなどスポーツ経験者も多かったのだとか。
展示されている昔の写真を見ると、立会場の姿も時代とともに変わっていったことが分かります。
建て替え前の立会場では、成立した株価を黒板にチョークで書いて表示していました。
写真をよく見ると、その立会場の天井には、現在も館内に残されている扇形のステンドグラスを見ることができます。
その後の立会場では、株価の表示は電光掲示板へと変わっています。
それでも場内にはまだ大勢の人が集まり、ハンドサインを使って売買が行われていました。
そして取引のコンピューター化が進み、1999年、株券売買立会場はその役割を終えました。
展示されていた最後の日の写真には、大勢の人たちの頭上を埋め尽くすように花吹雪が舞っています。
今の静かな東証Arrowsからは想像できない光景でした。
現在の建物に残る、昔の東京証券取引所
歴史の話は、取引の方法だけではありませんでした。
かつての東京証券取引所は、石造りの柱が並ぶ重厚な建物でした。
館内には旧建物の写真や絵画が展示され、その一部は現在の建物にも残されています。
旧建物を飾っていた大きな像は、商業、工業、農業、交通・通信業を表したもの。
現在は小さなレプリカを見ることができます。
2階には、旧建物の玄関ホールに飾られていた3枚の円形の銅板も残されています。
表されているのは工業、商業、農業です。
さらに、戦後には東京証券取引所の建物がGHQに接収され、「Exchange Hotel」と呼ばれていた時期もありました。
かつて株の取引が行われていた立会場が、ダンスホールとして使われたこともあったそうです。
館内を歩いていると、昔の建物や立会場の写真が何度も目に入ります。
新しい建物へ変わっても、かつての東京証券取引所の姿を大切に残しているように感じました。
その一つが、旧建物から移されたステンドグラスです。
扇形をしたデザインは「末広がり」で縁起がよく、入口は風水で幸運が入ってくるとされる辰巳(南東)の方角を向いています。
ガイドさんからは、東証の「金運のパワースポット」と紹介されました。
見上げてみると、このステンドグラスには見覚えがありました。
以前の見学でも写真を撮っていたのですが、今回訪れる前に昔の写真を整理していたときには、それが何を撮ったものなのか分からなくなっていました。
現地でもう一度見上げて、ようやく「ああ、これだったのか」と記憶がつながりました。
「株式市場は20世紀最大の発明品」
見学の最初に聞いた、「株式市場は20世紀最大の発明品」という言葉。
見学の終わりには、トヨタ自動車を例に、日本の経済成長についての話もありました。
企業が資金を集めて事業を広げ、そこで働く人がいる。
新しい商品やサービスが生まれ、私たちはそれを購入したり利用したりする。企業が成長すれば、そこでまた新たなお金が動いていきます。
ガイドさんは、お金が回る経済は景気がよいということであり、景気がよくなれば商品やサービスもよりよくなっていく、と話していました。
株式市場は、株を売ったり買ったりする人だけのものではありません。
企業が成長するための資金と投資する人のお金をつなぎ、その先には企業で働く人や、商品やサービスを利用する私たちの暮らしがあります。
そして東京証券取引所は、そうした株式の売買が安心して行われ、企業が資金を調達できる市場を支えています。
「株式市場は20世紀最大の発明品」
一つだけ覚えて帰ってくださいと言われた言葉は、確かにしっかり残りました。









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