伊勢神宮の別宮のひとつ、志摩市磯部町の伊雑宮(いざわのみや)。 これまで何度か参拝していますが、隣接する御神田を訪れたのは、いつも田植え前か稲刈り後でした。 そこで今回は、青々とした稲が広がる真夏の風景を一度見てみたいと思い、朝早く再訪することにしました。
駐車場に降り立つと、辺りに響いていたのは蝉の大合唱。 鳥居越しに眺める鮮やかな御神田は、土だけが見えていたこれまでとはまったく異なり、真夏の青空の下で神々しいほどの美しさを見せていました。
御神田を眺めたあとは伊雑宮に参拝し、倭姫命旧跡地を通って、徒歩で志摩三大石神のひとつ「上之郷の石神」へ。 さらに車で伊雑宮の所管社・佐美長神社にも足を延ばしました。 志摩の集落や深い木々の中に息づく、静かな祈りの風景を巡った朝をご紹介します。
真夏の御神田を見たくて、伊雑宮を再訪
2026年8月。伊勢神宮の別宮である伊雑宮(いざわのみや)を再び訪れました。 これまで何度も参拝している場所ですが、今回はひとつ楽しみにしていたことがありました。
それは、隣接する御神田が青々とした稲に包まれた風景を見ることです。 これまで訪れた季節は田植え前か稲刈り後ばかりで、鳥居の向こうには土が広がる光景しか見たことがありませんでした。 「一度、夏の御神田を見てみたい。」 そんな思いが今回の再訪のきっかけでした。
連日36度を超える暑さが続いていたため、この日は朝8時頃に到着。 駐車場に車を降りると、耳に飛び込んできたのは蝉の大合唱でした。 停まっていた車はわずか3台ほど。普段は静かな場所ですが、この日は蝉たちのオーケストラが境内周辺を賑わせ、夏らしい始まりを迎えてくれました。
伊雑宮は境内自体はそれほど広くありませんが、広めの駐車場が整備されています。 それでも参拝客は多くなく、何度訪れても落ち着いた空気の中で静かに手を合わせることができる、私にとって大好きな場所のひとつです。
青々とした御神田に広がる、夏だけの風景
まずは伊雑宮のすぐ隣にある御神田へ向かいました。
目の前に広がっていたのは、これまで見てきた景色とはまったく違う光景でした。 鳥居の向こうには、風に揺れる鮮やかな緑の稲。 以前は土だけが広がっていた場所とは思えないほど、生命力に満ちた風景が広がっていました。
真夏の青空と緑の稲のコントラストは想像以上に美しく、鳥居越しに眺める御神田はどこか神々しくも感じられます。 思わず足を止め、しばらくその景色を眺めていました。
以前には見かけなかった木製の立札も設置されていました。 そこには、魚鳥木石を採ることや、ペットの立ち入り、関係者以外の立ち入りを禁止する内容が記されています。 御神田を大切に守り続けるための配慮なのだと感じ、静かに景色を楽しませていただきました。
御神田はいくつかの区画に分かれており、鳥居正面の田んぼにはまだ稲穂は見られませんでしたが、伊雑宮寄りにある区画ではすでに稲穂が実っていました。 品種の違いなのか栽培時期の違いなのかは分かりませんが、同じ御神田でも少しずつ表情が異なり、その違いを眺めるのも楽しい時間でした。
土だけが広がっていたこれまでの風景には、日本らしい侘び寂びを感じる素朴な美しさがありました。 一方、夏の御神田は生命力に満ちあふれ、神々しささえ感じる景色です。 同じ場所でも季節によってまったく違う表情を見せてくれることを、今回改めて実感しました。
静けさに包まれた伊雑宮をゆっくり歩く
御神田をあとにし、再び駐車場を経由して伊雑宮へ向かいます。 伊雑宮は「正宮につぐ重要なお宮」とされる別宮のひとつで、磯部の御神田を持つ唯一の別宮として知られています。
初めて訪れたときは近鉄・上之郷駅から歩いて参拝しましたが、駅から徒歩数分というアクセスの良さも魅力です。
鳥居をくぐると、それまでの空気とは少し違う静けさに包まれます。 派手さはありませんが、凛とした雰囲気が漂い、何度訪れても自然と背筋が伸びるような気持ちになります。 鳥居の先には緑豊かな参道が続き、その美しさは正宮にも引けを取らないと感じています。
右手の守衛屋の脇には、樹齢700年を超える「巾着楠」があります。 根元が巾着袋のように大きく膨らんだ姿から金運のご利益があるともいわれ、近くで見上げると、その力強い姿に思わず見入ってしまいます。
さらに奥には勾玉の形をした「勾玉池」があります。 池の形が分かるよう近くまで行きたかったのですが、この日は「マムシ注意」の看板が立っていたため無理はせず遠くから眺めるだけにしました。 そのため写真では勾玉の形が少し分かりづらくなってしまいましたが、それもまた旅の思い出です。
参道を進むと、忌火屋殿と祓所の先に「夫婦杉」が姿を現します。 一本はまっすぐ空へ向かい、もう一本は大きく斜めに傾きながら成長しています。 寄り添うように立つその姿は珍しく、長い年月をともに歩んできたことを感じさせてくれました。
参道の先には静かに佇む伊雑宮の社殿と、その右手には古殿地があります。 鳥居から社殿までの距離はそれほど長くありませんが、豊かな緑と厳かな空気に包まれた境内を歩いていると、不思議と心が整い、参拝を終える頃には清々しい気持ちになっていました。
同じ内宮の別宮である滝原宮も、鳥居をくぐると空気が変わるような神聖さがあります。 ただ、伊雑宮は志摩の集落に寄り添い、御神田とともに地域の暮らしに溶け込む「里」の雰囲気を感じます。 一方の滝原宮は深い森に包まれ、長い参道の先に社殿が並ぶ「森の聖地」という印象です。 どちらも魅力がありますが、それぞれ異なる空気を感じられるのも別宮巡りの楽しさだと思います。
徒歩で上之郷の石神へ
参拝を終えた後は、徒歩で上之郷の石神へ向かいました。
伊雑宮の前を通り、住宅が並ぶ通りを歩いていくと、昔は旅館として営業していたという老舗うなぎ店「中六」があります。 木造二階建ての建物は登録有形文化財にも指定されており、どこか懐かしい趣を感じさせてくれます。いつか機会があれば、こちらで食事も味わってみたいと思いながら先へ進みました。
途中には、伊雑宮から北東へ約100mほどの場所にある「倭姫命旧跡地」があります。 ここには「千田の御池」や「千田のきんちゃく楠」、倭姫命ゆかりの「天井石」、そして「鏡楠」が静かに残されています。
真夏だったためか御池には水はありませんでしたが、千田のきんちゃく楠は伊雑宮の巾着楠ほどではないものの、根元がふっくらと膨らんだ印象的な姿を見せていました。 また、「天井石」と「鏡楠」は以前訪れた時にはなかったように思う屋根で覆われており、大切な史跡を守るための整備が進められたのかもしれません。
さらに細い住宅街の道を進むと、道路脇に小さな石碑が現れます。 「上之郷の石神」と刻まれたその石碑は目立たないため、初めて訪れる方は見落としてしまうかもしれません。
道路沿いの鳥居をくぐると、ゆるやかに下る参道が続きます。 平ブロックで整備された参道を歩いた先には、注連縄で囲まれた円形の広場が静かに広がっていました。
そこには社殿はなく、しめ縄が掛けられた六体の磐座が祀られています。 そのほかにも地面から顔をのぞかせる大きな石が点在し、この場所そのものが古くから信仰の対象であったことが伝わってきます。
人の姿はなく、聞こえるのは風が木々を揺らす音だけ。 山の中にぽつりと残されたその空間には、時間が止まったかのような静けさが流れていました。
上之郷の石神は、志摩地方で古くから信仰されてきた「志摩三大石神」の一つとして知られています。 華やかな神社ではありませんが、自然そのものを信仰の対象とする古くからの祈りの形が、今も大切に守られていることを感じられる場所でした。
車で佐美長神社へ
上之郷の石神をあとにし、一度伊雑宮の駐車場へ戻ってから車で佐美長神社へ向かいました。
佐美長神社は伊雑宮の所管社の一つで、伊勢神宮に属する125社の一社でもあります。 専用駐車場はないため、今回は道路向かいにある役場の駐車場を利用させていただきました。
道路に面した神社ですが、入口はそれほど大きくありません。 しかし、木々に覆われた少し小高い境内を見上げると、その奥に神聖な空間が広がっていることが自然と伝わってきます。
石段を上がると、想像していた以上に広々とした境内が広がっていました。 真夏の午前9時を過ぎ、外では強い日差しが照りつけていましたが、境内は深い木々に守られ、直射日光がほとんど差し込みません。 木漏れ日がやさしく降り注ぎ、空気もどこかひんやりとしていて、外で流れていた汗が不思議と落ち着いていくようでした。
境内には誰もおらず、聞こえてくるのは蝉の声だけ。 すぐ下には道路があるにもかかわらず車の音はほとんど気にならず、まるで外の世界から切り離されたような静けさに包まれていました。 深い木々に囲まれたその空間には厳かさと神秘的な雰囲気が漂い、静かに手を合わせているだけで心が穏やかになっていくようでした。
今回もほかの参拝者と出会うことはありませんでしたが、以前訪れた際には親子と思われる女性二人が長い時間静かに手を合わせている姿を見かけました。 その光景がとても印象に残っていたことを、この場所に立って思い出しました。
社殿の隣には古殿地があり、さらに境内には四つの社殿からなる佐美長御前神社も鎮座しています。 規模は決して大きくありませんが、伊雑宮とともに長く地域の信仰を支えてきた歴史を感じられる場所でした。
まとめ
今回の再訪では、これまで見たことのなかった真夏の御神田を眺めることができ、季節によって伊雑宮の表情が大きく変わることを改めて実感しました。
伊雑宮の厳かな空気、自然そのものを信仰する上之郷の石神、そして深い木々に包まれた佐美長神社。 それぞれに異なる魅力がありながらも、どの場所にも静かな祈りの時間が流れていました。
伊勢神宮の別宮というと内宮や外宮に目が向きがちですが、志摩の里に静かに佇む伊雑宮とその周辺を歩いてみると、この土地に根付いてきた信仰の深さをより身近に感じることができます。 華やかな観光地とは違う、心を静かに整えてくれる時間を過ごしたい方におすすめしたい場所です。






























🌿 伊勢志摩に受け継がれる、自然と祈りを訪ねて
伊雑宮や上之郷の石神、佐美長神社を巡ると、志摩には自然そのものを敬い、祈りを捧げてきた場所が数多く残されていることを実感します。
森や名水、海辺の神域など、伊勢志摩で心に残った祈りの風景もあわせてご紹介します。


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